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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)1310号 判決 1973年11月16日

控訴人兼清川保千代訴訟承継人

清川俊保

被控訴人

泉南市兎田部落

右代表者区長

山下喜七郎

右訴訟代理人

伊藤増一

主文

別紙目録記載の各土地が被控訴部落構成員全員の総有に属することを確認する。

控訴人は泉南市兎田七六三番地山下喜七郎に対し右各土地につき持分一二分の一の所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、被控訴人

主文第一、二項同旨。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

(当審において訴を変更して右の請求をし、原審における訴を取り下げた。)

二  控訴人

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、被控訴人の主張

(一)  第一審被告清川保千代は昭和四七年一月一日死亡し、控訴人ならびに第一審被告清川俊昭、同清川俊茂がこれを相続した結果、本件各土地に対する控訴人の名義上の持分は一二分の一となつた。

(二)  被控訴人は権利能力なき社団であるから、本件各土地は被控訴部落構成員全員の総有に属し、これについての登記は、構成員から一切の管理処分の委託を受けている被控訴人代表者山下喜七郎の個人名義になされるべきものである。よつて、訴を変更して、前記判決を求める。

二  証拠関係<略>

理由

一被控訴人のため本件訴の提起をした弁護士が以前本件土地についての控訴人ら先代と訴外会社間の調停事件の調停委員であつた一事により訴を不適法とする控訴人の主張および部落民により構成される権利能力なき社団の訴についても町議会の議決を要するとの主張は、いずれもそれ自体失当というべきである。

二原審証人道井大助、同中野繁一および同中野宗勝の各証言ならびに弁論の全趣旨によれは、被控訴人が部落居住者により構成され、部落の資産を有し、区長を代表者と定める社団たる実体を有するものであり、現在山下喜七郎がその代表者であることを認めることができる。

三(一) 権利能力なき社団の資産たる不動産は、社団の構成員全員に総有的に帰属するとともに、法形式上は構成員全員のため信託的に社団代表者個人の所有とされ、右代表者は、かかる受託者たる地位において、これにつき自己個人の名義をもつて登記をすることができることは、最高裁判所昭和四五年(オ)第二三二号同四七年六月二日第二小法廷判決(民集二六巻五号九五七頁)の判示したところである。

(二) このように権利能力なき社団の資産たる不動産が構成員全員の総有に属する場合には、各構成員は、構成員たる資格において右不動産を共同して収益しうる権能を有し、他方、これを管理し処分する権能は、実質上社団に帰属するとともに、法律上は社団の代表者が前記のような受託者たる地位においてこれを行使するのである。ところで、この場合には、構成員全員が共同して、第三者に対し、当該不動産を収益する権能を有することの確認を求める趣旨の訴を提起することができるが、また、右の収益および管理処分の権能を合わせた総体としての権利が構成員全員を包摂する団体に究極的に帰属しているものと見て、社団自体が原告となり、当該不動産が構成員全員の総有に属する旨の確認の訴を提起することも可能というべきであり、民訴法四六条が法人にあらざる社団で代表者の定めのあるものはその名において訴えることができる旨を定めた法意に徴しても、社団自体にかかる訴を提起する利益および適格を認めるのが相当である。したがつて、本件確認の訴は適法とすべきである。

(三) 本件土地が被控訴部落の資産に属するものと認められることおよびこれが清川義従外三名の共有名義に登記されていることは、原判決理由に認定のとおりであつて、これに反する当審における控訴本人尋問の結果は信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。そして、控訴人が右清川義従の相続人であることは、控訴人の明らかに争わないところであるから、被控訴人が控訴人に対して右の趣旨の確認を求める利益を有することも明らかであつて、この点の請求は理由がある。

四(一) 前記のおりと、社団の資産たる不動産が構成員全員に総有的に帰属しているとされる場合であつても、総有の内容をなす収益および管理処分の権能を合わせた総体としての権利は社団自体に究極的に帰属しているものとみるべきであつて、実質的には社団が所有権を有するのと異ならないものということができる。そして、法人格を付与されていない社団であつても、その団体としての社会的実在を承認する以上、社団の有する実質的権利を法律上も権利として承認し、できるかぎり一般の権利能力者がこれを有する場合に近い法的効果を認めてその保護をはかることが適切であることも、多言を要しない。このような見地においては、社団の資産につき社団自体に第三者に対する妨害排除請求権等を認めることにも何ら支障はないのであり、無権原の第三者名義に所有権の登記がなされている不動産については、社団は、自己の権利に基づき、右第三者に対し、登記を実体に符合させるよう請求することができるものと解すべきである。ただ、前記判例によれば、権利能力なき社団の資産たる不動産については、社団の代表者の個人名義に登記がなされるべきであり、したがつて、代表者がみずから第三者に対して登記手続を請求することができるのであるから、その反面、社団自体は登記簿上の所有名義人たりえないものと解されるのであるが、これは、現行登記制度の手続面における技術的な制約によるにすぎないのであつて、そのために社団の実体上の権利がただちに左右されるものではなく社団が自己のため手続上可能な登記すなわち、社団の資産たる不動産につき代表者個人を登記権利者とする登記権利者とする登記手続を第三者に対して求めることができ、これまた登記請求権の一形態であると解すべきである。社団がかかる登記請求権を訴訟上行使しうるものと解することは、もとより民訴法四六条の趣旨にも合致するところであり、社団が訴を提起した場合に、これを斥けて、代表者個人による訴の提起をまつべき実益も存しないのである。なお、前記判例は、社団が登記請求権を有しない旨を判示しているが、これは、通常の場合のように自己の名義に登記を求めることができないことを説示したにすぎないものと解すべきであつて、右のような内容の登記請求権の存在を認めることは、右判例に矛盾するものではないというべきである。

したがつて、社団は、権原なく登記名義を有する第三者に対しては、自己の登記請求権の行使として、右登記の抹消またはこれに代わる代表者個人名義への所有権移転登記手続を請求することができるものと解するのが相当である。

なお、代表者は、自己の名をもつて、しかしもつぱら社団のために、その資産を管理するものであるから、右のように社団の請求は基づき代表者個人名義への所有権移転登記手続をなすべき旨を命ずる判決が確定したときは、代表者は、民訴二〇一条一項にいう当事者のため請求の目的物を所持する者に準じて、判決の効力を受け、右判決に基づきみずから登記申請をすることができるものと解すべきである。また、社団を当事者とする前記確認および登記手続請求の訴訟における判決の既判力は、社団の構成員に及ぶものではないが、社団勝訴の確定判決があれば、これによつて構成員の権利は対外的に確保されるのであるから、重ねて構成員が第三者に対して各自の収益権能の確認を求める前記のような訴等を提起する必要はなくなるのである。

(二) 本件土地が被控訴人の資産に属することおよびその登記名義は前記のとおりであり、清川義従および清川保千代の各相続に関する被控訴人主張事実は控訴人の明らかに争わないところであるから、控訴人は、被控訴人に対し、真正の登記名義の回復のため、持分一二分の一につき被控訴人代表者山下喜七郎への移転登記手続をなすべき義務を負うべきであつて、本訴登記請求は理由がある。

五よつて、被控訴人の当審における請求をすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(なお、訴の変更により、原判決は失効した。)

(沢井種雄 常安政夫 野田宏)

<目録省略>

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